「ハイテクノロジー」 2007年1月25日号に掲載された内容を再構成したものです。
| 掲載誌 | 電波新聞第2部「ハイテクノロジー」2007年1月25日号 |
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No. TA06D2
昨今環境問題に関心が高まってきており、特に自動車市場では、ハイブリッド自動車 (HEV) や電気自動車 (EV) の開発が進んでいる。同時に、機能の電動化が加速されてきており、自動車に搭載される電子部品についても大きく技術動向が変わってきている。特にHEVやEVの駆動モータ制御用インバータを初めとしたパワーエレクトロニクス技術の発展は自動車が進化していく上での重要な駆動力となっている。今回紹介するコンデンサはこのような背景の中、村田製作所がインバータ機器の小型化や高効率化への貢献を目指して開発した、パワーエレクトロニクス用途特化型の積層セラミックコンデンサ (以下MLCC: Multilayer monolithic ceramic capacitor)、EVCシリーズである。
HEVやEVの駆動モータ、電動エアコンのインバータにおける平滑用コンデンサには、現在、主にフィルムコンデンサもしくはアルミ電解コンデンサが用いられている。しかしながら、EVCシリーズはフィルムコンデンサやアルミ電解コンデンサに比べて次の長所を持っており、これらのアプリケーションに革新的なソリューションを提案できる可能性を持っている。
図1に各種コンデンサのESR比較例を示す。EVCシリーズはフィルムコンデンサやアルミ電解コンデンサに比べてESRが低く、特に高周波側でその差が顕著となる。実際に各種コンデンサの発熱特性を比較してみると (図2参照)、EVCシリーズの発熱が最も低い結果となった。許容自己発熱温度が同じだと仮定しても、EVCシリーズはフィルムコンデンサやアルミ電解コンデンサに比べ大きな許容リップル電流容量を持つことが分かる。
MLCCは異種コンデンサに比べ圧倒的に高い比誘電率を持つセラミックを誘電体として用いる。このため、小型大容量という特徴を持っている。例えば、同等仕様の比較をおこなった場合、単位体積当りの容量はフィルムコンデンサに比べて数倍程度である。同様にアルミ電解コンデンサと比較すると、単位体積当りの容量に大きな差は無い。しかしながら、アルミ電解コンデンサはその構造から、特に低温環境において非常にESRが高くなり、実使用における実効容量が MLCCと同等以下となる場合もある。
MLCCは比較的高温まで材料の変質が起こりにくい。このため、フィルムコンデンサ、アルミ電解コンデンサの最高使用温度が材料の性質上105℃程度であるのに対し、MLCCは150℃やそれ以上の高温作動を保証できる可能性がある。
図1: 各種コンデンサのESR比較
図2: 各種コンデンサの発熱比較
EVCシリーズの一例を図3に示す。外形が32×40×3.7mmで、定格電圧がDC250V、DC150V印加時の実効容量は38μFである。インバータの平滑用途に特化した製品であり、1ユニット当りの許容リップル電流は20Armsを超える。我々が量産している汎用品のなかで最大サイズの製品は 5.7×5.0mmであるが、EVCシリーズはこの100倍程度の体積を持っている。
パワーエレクトロニクス用途でコンデンサに求められる性能は、特にDCバイアス下での高容量と高許容リップル電流である。しかしながら、汎用の BaTiO3系MLCCではこれらの両特性をバランス良く具現化するのは困難であった。例えば、DCバイアス下での容量低下が大きかったり、誘電損失が大きいためリップル電流による発熱が大きかったりと、材料特性の面から汎用品は必ずしもこの用途に適していない。そこで、EVCシリーズでは専用のセラミック材料として、バイアス下での高容量と低誘電損失を兼ね備えた材料を開発した。
また、本製品は基板からの機械的応力を吸収するために金属端子付きの構造とした。一般に接合材にははんだが用いられるが、疲労破壊しやすく、温度サイクルでクラックが発生してしまうため、特に高温環境での使用には適さない。また、高温対応の接合技術として導電性樹脂が挙げられるが、これは接合部の抵抗が高く、大電流用途には適さない。そこで、高温+大電流 (パワーエレクトロニクス) 用途向けとして、新接合技術を開発し、実用化した。
図3: パワーエレクトロニクス用MLCC外観写真
EVCシリーズは広く大電力用途をターゲットとしているが、現在主に以下の2つの用途に関して提案を行っている。
車載用インバータの一般的な回路を図4に示す。先にも示したように、現在、インバータ平滑用途には主に大容量のアルミ電解コンデンサやフィルムコンデンサが用いられている。しかしながら、使用されているコンデンサの容量はその許容リップル電流に律速されているのが現状である。つまり、過剰な容量のコンデンサが使用されていると考えられる。EVCシリーズは特に許容リップル電流が大きいため、これらのコンデンサよりも小さな容量で十分な平滑機能を得ることができる可能性がある。このため、MLCCが持つ小型大容量という特徴と相まって、システム全体の大幅な小型化を実現できる可能性がある。現在、一部の電動車輌において、このEVCシリーズの搭載が始まっている。
図4: 車載用インバータ回路イメージ図
インバータ回路におけるスナバ用途において、MLCCは特に適している。この用途には、平滑コンデンサがその役割を兼ねるか、もしくは付加的にフィルムコンデンサが使用される。 スナバ用途におけるMLCCの第一の利点として低ESLが上げられる。各種コンデンサの周波数特性を図5に示す。MLCCはESLが低いために、特に高周波側でのインピーダンスが低い。実際のサージ除去におけるコンデンサ両端電圧を見てみると (図6)、MLCCは比較対象のフィルムコンデンサよりも容量が小さいにもかかわらず、良好なサージ除去効果が得られることが分かる。
第二の利点はサージ発生源の近くに配置できることである。アルミ電解コンデンサやフィルムコンデンサは、その体積と耐熱性能から、サージ発生源であるスイッチング素子の近くには設置できないことが多く、一般に配線のインダクタンスが大きくなる。このため、十分なサージ除去効果を得るためには必要以上に大きな容量のコンデンサが必要となる。一方、MLCCはその耐熱性能と小型大容量の特徴から、スイッチング素子の近くに設置できるため、より小さな容量でも十分なサージ除去効果を得ることができる。これにより、システム全体の小型化、コストダウンというソリューションを提供できる。
図5: 各種コンデンサの周波数特性比較
図6: MLCCとフィルムコンデンサのノイズ除去比較
今後、EVCシリーズの定格電圧、容量ラインアップを拡大していく予定である。村田製作所は、このEVCシリーズの長所を生かしたソリューションを広く提供し、パワーエレクトロニクス技術の進化、ひいては地球環境保護に貢献してゆく。